第19回 ノート展結果発表

「その人の素が見たい」とあえて最も難しい「自由」をテーマに据えた第19回ノート展審査員の佐藤可士和氏。デザインをビジュアル表現に留まらず、ビジネスや社会活動、地域活性など幅広い分野に応用していくクリエイティブディレクターが選ぶ作品たちとは?

【大賞】矢入幸一

*作品講評*
すごく好きな作品です。ざっくりつくっているように見えて、質感にまで凝ったきめ細かな仕上げをされています。ドローイング的なタッチとデザイン的な細部のバランスもいい。コピーか鉛筆だと思いますが、そのグレーの色のレトロさの中に新しさも見えるなど、完成度が非常に高いです。実力のある方なので、幅広い媒体やメディアで依頼してみたいですね。Tシャツなどのアパレル向けイラストレーションなどもいいものになりそうです。(佐藤)

【準大賞】しまだたかひろ

*作品講評*
メソッドが明快で仕上がりもはっきりしているので、安心してお仕事をお願いできる方だと思いました。思案を巡らせている様子がわかるし、デザインやカリグラフィー的な新しさがあっていいですね。今はまだ線に多少の迷いが見えるので、もっと描く練習をして技術を高め、軽やかさを突き詰めてほしい。さらによい作品になると思います。(佐藤)

【準大賞】タニモト大作

*作品講評*
デザインと建築とイラストレーション、幅広い表現が融合した独特の世界観がいいですね。繊細なコラージュも面白いし、画面に個性やセンスが滲み出ています。ただ、人は入れずに完全に無機質に仕上げた方が世界観に合うのでは。1920年代の前衛芸術の雰囲気もあるので、Webやニュース番組のオープニング映像、店舗の内装などでも合いそうです。(佐藤)

【入選】UTA

*作品講評*
よくある手法ながら、色や形、貼り方など仕上げの繊細さにまで彼の美意識がはっきりと出ています。すごく難しいにも関わらず、この方法論でオリジナリティがよく出せるなと感心しました。ただ、その表現に比べて伝えたいことのパンチが弱い点と、作品の関連性が不明瞭な点が気になりました。また、配色は全作品で変えるかテーマカラーを決めるほうがよかったですね。(佐藤)

【入選】玉村聡之

*作品講評*
メソッドがきちんとある、グラフィックデザイナーの方らしいアイデアです。手描きの味を残したいのだとは思いますが、仕上げが曖昧で単なるムラに見えてしまう点が残念。デジタルで描く、コピーでモノクロに変換するなどベストな仕上げを熟考してほしい。またサイズも揃えるなど細部にこだわると、今の10倍は作品がよく見えると思います。(佐藤)

【入選】フシミヅ

*作品講評*
好きなものや方法論がはっきりしている方です。この飄々としたセンスと世界観なら何でも描けそうですが、どこかで見たような感じもあるのが惜しい。顔のタッチも揃っていないので、本当に描きたい顔なのかなとも思いました。無意識で自分の素が出るくらいまでたくさん描いてみると、さらに新しい扉が開けると思います。(佐藤)

【入選】西村隆史

*作品講評*
世界観や雰囲気がいいですね。作品ごとに微妙に線のタッチが違ったり、強弱のムラがあったりと多少の甘さは感じます。ただ一目見た時の印象が非常によかったので、今後の可能性に期待したい方です。(佐藤)

【入選】いだちえみ

*作品講評*
不思議な迫力がありますね。塗り潰し方に訴えかけてくるものがあるし、かわいい顔のキャラクターがゾンビのような何かを吐く様子も面白い。このなんとも言えない色づかいも含め、ご自身の表現したいことが明確な作品だと思いました。ただ、一枚だと展開が見えにくいので、他の作品も見てみたいですね。(佐藤)

【編集部賞】しろこまたお

*作品講評*
佐藤可士和さんも卒業した多摩美の学生さんです。装画に合いそうな独特の世界観と丁寧な表現があり、仕上げもきれいだと思います。プレゼンテーションもしっかりしています。縦横が混在した連作でしたが、並べるとアンバランスに見えたので縦3枚のみで。連作にする場合は、並べた時の全体的な印象も意識してみてください。(三嶋)

●審査総評●

似たような表現があふれる今の時代、独自性を出すのは難しいことですが、諦めずに考えてほしいと思います。キラリと光る作品をつくるためには、アイデアや作風、テーマ選定、仕上げまで、すべてに新たな何かを加える挑戦を続けること。自分にしかできない表現の探究は、来たるべきAI時代を生き残る力にもなるはずです。またこの話はプレゼンテーションにも関係することですが、審査をしていて見せ方に無頓着な人の多さに驚きました。人に伝えること、作品の見せ方まで熟考しながら、新しい表現を見つけて進化させる努力と思考を持つ。そんな丁寧さと大胆さが、これからのイラストレーターには重要だと思います。

■審査員PROFILE

クリエイティブディレクター・アートディレクター
佐藤可士和 氏

博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶應義塾大学特別招聘教授。昨年は文化庁・文化交流使としてパリにて展覧会を開催。 
kashiwasato.com

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