第20回 ノート展結果発表

第20回ノート展審査員は松浦弥太郎氏。『暮しの手帖』編集長時代は仲條正義氏の作品を表紙画に起用するなど、イラストレーションに対する独自の視点と造詣の深さを持つクリエイティブディレクターだ。そんな松浦氏が選んだのは、どんな作品だろうか?

【大賞】いちかわかおり

*作品講評*
実は、一目見た瞬間にこれだと決まっていたんです。前向きなファンタジーさはあるのに遠い世界ではない。この方にしか描けない世界にすごさを感じました。いい作品には“見ると嫌なことを忘れる”力があるんですが、これはまさにそう。人を癒す力だけでなく、絵としての技術力も非常に高いです。パステルでこの淡さに留めるのは難しいはずですが、絶妙なバランスですよね。『The New Yorker』の表紙も飾れるレベルですから、日本よりヨーロッパで活動されてみるといいのではないでしょうか。(松浦)

【準大賞】山田七重

*作品講評*
イラストレーションのコミュニケーションの一つに“ストレートに伝えること”がありますが、これほど涙というテーマをまっすぐ伝えてくる作品はないと思います。タッチは今風で内省的ですが、単なる勢いではなく、頭の中で完成形を見て描いている方だと感じます。少女のモチーフと髪の描写が魅力だと思いますから、この少女の作品をもっと見てみたいですね。(松浦)

【準大賞】lila

*作品講評*
イラストレーションならではの表現とは何なのか? と考えた時に立ち返るべき作品じゃないでしょうか。小さいサイズ感やタッチ、一見すると懐かしく見えるのですが、しみじみといいなぁと思えてくるんですよね。高いセンスを感じさせる一方で、見る人には自分でも描けそうだと思わせるような親しみや距離感の近さもあります。デジタルよりも紙で見ていたいです。(松浦)

【入選】橋村実里

*作品講評*
線がきれいでデッサンが上手、配色もすてきですよね。普段僕らの接する機会がない世界を舞台に、のどかな幸せを描いたほのぼの感が大好きです。小さくまとまっていないのもいい。こちらから何かテーマを伝えて描いてもらったり、または彼女の絵をエッセイ仕立てにしてみたいとも感じました。お仕事にすぐ繋がりそうな、高いクオリティの作品だと思います。(松浦)

【入選】椎葉智志

*作品講評*
自らの興味や面白く感じる対象にまっすぐ取り組んだ作品です。簡単に描いたように見えて、高い技術やバランス感がなければここまで上手にはまとめられないと思います。描写や構図などすべての要素から、「このセンスがわかるか」と挑戦されているかのような力も感じました。キャラクター性がとても強いので、ひたすらこの力士を描き続けていてほしいです。(松浦)

【入選】ミズカミエリカ

*作品講評*
水彩と色鉛筆で丁寧に描かれたスタンダードな作品で、見ているとホッとしますね。25歳という幅広い手法に挑戦できる年齢でありながら、イラストレーターとしてあえてこのタッチを選んでいる。その独自の世界観が、この作品の古くて新しいという印象をつくっている気がします。紙でよさが出るタイプなので、雑誌や本の表紙などで見てみたいですね。(松浦)

【入選】松栄舞子

*作品講評*
作品ごと、また3点で見た時にもストーリーを感じる、イラストレーションでありながらアートでもある作品だと思いました。短編小説のような深みがあり、じっくりと世界に浸ることができます。アニメーションにも向いていそうだし、画材や基材の質感が優しく、ものとしての魅力もある。準グランプリが3点あればこれを選んだくらいに大好きです。(松浦)

【入選】志水聡香

*作品講評*
まるで、見る人の何かを確かめられているかのよう。イラストレーションで詩や短編をつくることに挑んでいて、そこに強い独自性を感じます。混沌としているのに不健全さが微塵もない点もすごい。また全体的にクオリティが高いので、どこをトリミングしても使える強みもあります。ただ、僕には何一つ理解ができないんですよね。購入して、何年もかけて解読したい作品です。(松浦)

【編集部賞】Echizenya/ 虫口夢(バロンド)

造形力と想像力に優れています。見たことがない形なのに、生物の構造のように無駄なくデザインされている。現実や想像の生物、その形や色に興味を持つ中で、造形力を独自に磨いた方なのかもしれません。でも、独りよがりではなく見る人に対するコミュニケーション力もある。まだ未熟な部分はありますが、可能性や作品への熱を感じたので編集部賞としました。(三嶋)

●審査総評●

全体的にファンタジーな作品が多かったですね。また、自らのイラストレーションの定義を持ち、見た人が幸せになるかどうか客観的に判断して制作している人とそうでない人の違いが顕著だった気がします。自由課題だとどうしても自らの世界を描くことになりますが、その中でもコミュニケーション力が高い方に惹かれました。人に審査してもらうことはビジネスに近いです。前知識のない審査員に、先の仕事までイメージした上で、どうコミュニケーションを取るか考えるからです。見せてほしいのは、あなた自身ではなく、あなたがどんなコミュニケーションを取るか。そこを自覚して、多くの絵が集まる場に自分の作品が混ざった時のことを考えて、制作してほしいと思います。

■審査員PROFILE

松浦弥太郎 氏

1965年東京生まれ。エッセイスト、クリエイティブディレクター。十代で渡米。アメリカ書店文化に触れ、エムアンドカンパニーブックセラーズをスタート。2003年、セレクトブック書店「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年から『暮しの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。「今日もていねいに」「考え方のコツ」「100の基本」他、著書多数。

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