イラストレーションの世界を志す人々に、広く門戸を開いている誌上コンペ「ノート展」。第17回を迎えた今回は、80年代から新たな才能や流行を発掘し続けてきたカルチャー誌『BRUTUS』編集長の西田善太氏が審査員だ。約350点の応募から「一枚で特集を左右する力がイラストレーションにはある」と語る氏が選出した作品とは、どのようなものだったのか。各受賞作品を紹介していこう。
※審査の詳細はイラストノート38号本誌を御覧ください。
*作品講評
すごくいいですね。人がたくさんいるけど、群像のイラストにありがちな緊張感、嫌な怖さがないのが好きです。あり得ないシチュエーションだけどほのぼの感や寛ぎも見えるし、人の視線や表情がバラバラなのにまとまって見える不思議さがいいですね。一人ひとりに感情や個性や喋り方の癖がありそうなのも面白い。今回の応募作で顔を描くのが一番うまい方だと思いました。デフォルメされていても誰かに当てはめられる気がするし、恐らくモデルがいるんでしょう。モチーフが違っても同じ人だとわかる強いコアがあるしなんでも対応できそう。男っぽいダークな色みも好き。文句なしです。
*作品講評
作風に既視感はあるけど、それ以外にも何かを持っている人だと思います。子どもの絵のようで子どもには描けない、大人ならではの不思議さがありますね。どこまで考えて描いてるのかな…モチーフが画面に収まっているのを見ると構図は元から頭にあるんだろうけど、特に答えを出そうとしてない気がする。こういう絵は好きですね。
*作品講評
顔が気になって仕方がないんだよなあ。好みかと聞かれると自信はないけど、でも目が止まっちゃう。 4 枚見ると違う顔でも描き方に共通した特徴があるし傾向もわかる。このテイストなら安心して頼もうと思えますよね。応募作品だけだと構図が似ているので使う場は限定されるけれど、こんな雰囲気のカットが小説にあってもいいよねと思える作品です。
*作品講評
内なる何かが感じられます。発注を受けたほうが面白いモノを描く人かもしれないね。実は、なぜ選んだのか自分でも理由が言えないんです。そんな不思議な魅力があった絵です。見方が歪んでるところがいい。今後もしお仕事をされることになった場合も、このテイストは忘れないでほしいです。自分のその目を大事にしてください。
*作品講評
応募された作品3 枚のうち、この部屋の絵がすごく気になりました。映画「シャイニング」の一場面を思わせる「この部屋には何かある」感。真夏の不在というか、カゴにも何もいないのに息づいている感じが確かにあるのが面白い。パースや目線も変だし、普通の絵を描くことが好きというだけではない企みが感じられていいですね。
*作品講評
強烈なタッチがいいですね。3枚とも一目で同じ方が描いたとわかりますしね。個人的には少し力が強すぎると思うけど、意味があまりないから誌面では「すごく強いページ」って感じの雰囲気でまとまる、と思います。今後はこういう雰囲気の絵が意外と増えてくる気もします。本能か狂気か計算か読めないのが憎らしい(笑)。
*作品講評
恐らく3 枚とも同じキャラクターで描いていますよね。マンガっぽい顔は好みがわかれるところだけど、今のままでもジュブナイル文学の挿絵にイケるのでは。山に登るのかな? などと自然にストーリーを考えたくなる世界の枠も感じられます。きっと彼女の中にストーリーがあるんだろうけど、そこで勝負をかけたのは面白かったね。
*作品講評
これは一枚で保つ絵。「いい写真は選ぶだけでページができる」と言ったデザイナーがいるけど、この作品はまさにそう。でもそれって大事な基本だと思います。それに、止まってる、曲がってる、走ってる、それぞれ地面の動きを変えてあって、連作に対する意識もきちんとしています。切り取り方も構成の仕方もうまいです。
*作品講評
使う場所がすぐに想像できる、ザ・コマーシャルイラストレーションです。メッセージや主張も控え目、商業的に使いやすい形で応募されているのはやはりプロの方だなと思います。 Web やSNS でもビジネスができそうなタッチですよね。ただ自由テーマの公募展ですからもっと内面を抉るような表現も見たかったです。
雑誌の企画のように多様な作品が並び、とても面白かったです。ただ、この雑多な環境から抜けたいと思うのなら、他人のタッチや時代に好かれるタッチも研究しておくべきだと思います。受け手の好みや流行をまず学び、その上で先を追求することでしょうね。今回は、そんな中でも特にコアが強くてブレなさそうな作品を選びました。イラストレーションは世界観以上にタッチが重要です。見たことのないトーン&マナーだと、こちらも頼んでみたくなるものですよ。
マガジンハウス BRUTUS編集長
西田善太 氏
1963年生まれ。早稲田大学卒業後、‘87年博報堂入社、コピーライター職としてサントリー、日産自動車等を担当。‘91年マガジンハウス入社後、GINZA、Casa BRUTUS創刊に関わり、2007年より現職。編集長としてつくり上げた特集は180冊を超える。
http://magazineworld.jp/#/brutus/